獅子舞の視点は経済合理性に基づく、都市開発を進めてきた先に私たちが失ってしまった視点である。自然を土台として、コミュニティや経済が循環するならば、自然やコミュニティの力が弱まっている昨今、これらをより回復させていくために、私たちは何をすれば良いだろうか。経済界では環境や社会に配慮した取り組みに積極的に投資していくESG投資が広がりつつある。このような流れの中で、ある意味、地球のあちこちで鳴らされているアラートに気づかせてくれる存在が獅子舞なのかもしれない。
獅子舞は日本で最も数が多い民俗芸能で、門付けを行う性質がある。つまり、一軒一軒家を回り舞いを披露する。これは地域の暮らしの身近なところで受け継がれ、生活の中で生じた願いを叶える存在として機能してきた。また、それによって地域間の繋がりやコミュニティを作り出してきたのだ。日本全国47都道府県に存在し、かなりのサンプル数もある。日本列島は人間だけでなく獅子舞の住処でもあり、その住みやすい場所を特定することが実は、人間も、動物も、獅子舞も住み良い場所を作ることにつながる。
獅子舞の視点を都市づくりにどう生かすか、そのアイデアを考えた。

①ユニバーサルな街 設計計画
都市のハード面に獅子舞視点を盛り込む計画。
獅子舞がいることで、町の今が可視化される。
まだ我々人間が気付けていない盲点があるかもしれない。
障害を持つもの、セクシャルマイノリティなど、さまざまな概念とも通じるバリアフリーならぬ獅子舞フリーの考え方。新しいフィルターを通して都市を見てみたい。これを都市計画に盛り込むことで、新しい住民参加型のまちづくりが実現する。
獅子舞の視点が生きる場所はどこか?
例えば、
・都市の再開発が行われ、古い街並みが失われる地域
具体的に行うこと
①行政の協力のもと地域住民や開発事業者を集めて、地域を散歩する
②地域を散歩して気づいたことを付箋に書くなどして共有
③その地域らしい獅子頭や胴体のデザインと舞い方を考え、企画者・稲村が制作を行う。
④参加者は獅子舞をかぶりながら、2回目に地域を散歩してみる。ここで、獅子舞にとって居心地が良い場所とそうでない場所を明確化する。
⑤獅子舞の視点で地域を散歩して気づいたことを付箋に書くなどして共有。
⑥都市計画開発のプランに獅子舞の視点を反映する。
このワークショップを通じて地域の獅子舞の視点での住みやすさがわかる。これをさまざまな地域で展開していくことで、「獅子舞フレンドリーな町ランキング」のようなものが作れる。これがある種の住みやすさ、暮らしやすさに対する一つの基準となりうる。
例:東京都渋谷区100BANCHの周年を記念するお祭り「ナナナナ祭」で、獅子舞の視点で渋谷について考えるトークショを開催(2023年7月9日)。これをワークショップ形式にしてより住民参加型で実施する。

②あたたかい街 行動計画

都市のソフト面に獅子舞視点を盛り込む計画。
獅子舞がいることで、その空間がちょっと明るくなる。
その空間にいる人と人とが繋がる。
その空間の内と外が繋がる。
風通しの良い空間ができ、信頼関係が生まれ、そして暖かい空間が作られる。
そのような循環が生まれるあたたかい空間づくりのムーブメントです。
獅子舞の存在が生きる場所はどこか?
例えば、
・これから顧客を獲得していきたい新装開店のお店
・コミュニティスペースの1周年記念感謝祭など
具体的に行うこと
①そのコミュニティらしい獅子頭や胴体のデザインと舞い方を考える。
②企画者・稲村が中心となって、その場所で手に入る素材を用いて制作を行う。
②コミュニティに集う人を集めて獅子舞の胴体の中に入ってもらい、コミュニティ空間の内外を舞い歩く。その舞い方は非常にシンプルなステップを踏む程度にする。
※全員で獅子舞の胴体の中に入る、各々で異なる獅子頭を作る、獅子舞は1人の演舞者が行い参加者は楽器を打ち鳴らすなど、その形態はアレンジが可能)​​​​​​​
例①:東京都渋谷区100BANCHの周年を記念するお祭り「ナナナナ祭」で、「100BANCHの獅子舞」を制作して舞い歩きを実施(2023年7月)​​​​​​​
例②:徳島県神山町の田植え前の儀式的な獅子舞を実施。参加者は楽器を打ち鳴らす形で三角し、演舞者の稲村は農機具を使って舞いを展開した。(2023年5月)

この取り組みが目指すもの
獅子舞は日本で最も数が多い民俗芸能で、全国約7000地域で実施されています。
特筆すべきは地元に密着した芸能ということであり、各地域ごとに舞い方やデザインなどは異なります。それらは「お米がとれますように」「お魚がとれますように」など、地域の気候・風土・生業などからくる願いや祈りを実現して、厄を祓うという役割があります。また、地域の家を一軒一軒回って、門付け(玄関前での獅子舞の実施)を行う場合もあり、地元の方々に愛されていることも多いです。
この獅子舞の性質や視点を都市づくりのハード面やソフト面に生かしていくことで、より信頼関係が築きやすく、あたたかい寛容性溢れる町が実現するのではと考えています。
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