東北には日本古来の芸能が息づいている。そう直感していた僕はクリエイターインレジデンスへの参加をきっかけに、岩手県遠野市を訪れた。民俗芸能のしし踊りの起源に関心があり、まずは文献調査や伝承の聞き取り調査を進めた。そして、鹿の弔いとか、鹿の動きを真似たとか、対風呪術とか、千差万別の答えがあると知った。
正解はなくて、むしろ想像することに意味がある。それならば、猟師が自然に敬意を表しながら山に入り獲物を捕らえるような自然との緊張感のある対話の中からしし踊りが生まれたのではないかと推測した。「あの沢にはいつも獲物が現れる。だから、今日も現れてほしい」。このように願うことは、科学が進歩する中で徹底的に自然をコントロールして生産を行う一部の現代的な畜産業や農業に従事する人々の暮らしとは真逆の営みである。獲物が獲れるかわからないのに厳しい自然に挑み、やせ細った獣を仕留めて有り難く食すというような非効率的な暮らしこそ民俗芸能の「祈り」に通ずるものがあると思う。
山で獲った獲物を里に持ってくることで、山と里を行き来することになる。その垂直的な日常的行動の中に、民俗芸能や様々な物語や伝承、教訓が生まれて語り継がれるようになった。その背景には地形が大きく関わっており、遠野盆地を中心に周りが山で囲まれている遠野市では、山で得た情報が比喩的に里へと伝わり集積したと見るべきであろう。山で得た知恵、経験、獲物などは必ずしもお金になるものではない。しかし、猟師はあえてその道に進む選択をした。その生き方は東京に住む人々にどのような衝撃をもたらすだろうか。そのようなことを考えながら、遠野市含む日本全国各所にて猟師や芸能関係者の取材を行いつつ暮らしを紹介する本を製作中である。
<企業や団体の協力>
(2020年7月 クリエイターインレジデンスに参加)

<記事の執筆>
オマツリジャパン​​​​​​​
Back to Top/ All photos ©︎ Yukimasa Inamura