2023年10月9日から22日まで、インドネシア第二の都市・スラバヤに滞在。東ジャワビエンナーレ招待作家として、土地のリサーチ、シシの制作、演舞を実施した。滞在したTambak Bayanはスラバヤの中心部にあり、中国の広東省からの難民によって形成された歴史があるカンポン(kampung / 「原住民の村」の意)だ。40世帯が暮らすこのコミュニティは100年以上の月日が経ち、その建物の老朽化もあって、取り壊しの話し合いが何度もされてきた。ホテル建設会社が土地を買い、立ち退きを要求しているという。住民の中には住み続けたいという人と引っ越して良いという人がいるらしいが、「引っ越すとしても皆で引っ越したい」という。仲間であり、大きな家族のようだ。毎日のように大きな家「Big House」に人が集い、焼酎やウイスキーなどのお酒を酌み交わしながら思い思いの時を過ごしている。
シシ制作の最初の発想は、バティックのろうけつ染めで布を染めることだった。この布が獅子頭になった。描かれた図案が意味するものは、まず真ん中にシシのタテガミがあり、このテクスチャーはTambak BayanのBighouseの天井の老朽化した模様を取り入れたものである。またその下にTambak Bayanの俯瞰図があり、それを覆うように、地底を這うような生物を描いた。その模様は生活必需品である食料品や家具などでかなり細かい造形となった。その先端はまるで龍のようである。また、この布を中心として、右側には大きく見開いた目、左側には眠そうに半分閉じている目を描いた。これはそれぞれ太陽と月のモチーフであり、善と悪が永遠に循環していくとするインドネシアの人々の精神性あるいは芸能の根底を流れる考え方を模したものでもある。この3つの布はミシンの糸でつなぎ合わされた。住民の協力のもと1時間半にわたる格闘の末、ミシンの機械が使えるようになったのは良き思い出だ。この布の色は赤に白い模様が入っており、中国やインドネシア国旗、あるいはBig houseのランタンなどのモチーフから、創造された色である。
そのほかにもシシに使われたアイテムはこのようなモノがあった。
・バティック染めの布(獅子頭)5m
・メンバー3名が着るバティックの衣装
・紅白旗100m
・古いバロンサイの頭
・車輪の楽器
・自作のマラカス
10月21日16時半より演舞を行なった。獅子の歯ブラシのメンバー3人だけではなく、シシの演舞にどんどんと住民が参画し、100名以上の人が連なった。過去の制作の中で最も大きなシシになったと言える。自分の手を離れたところにいる他者が介入して、それで成立するシシだった。人と人との距離が近い、インドネシア、そしてスラバヤの特質をよく表したシシが誕生した。このシシが逆に住民に何かの作用をもたらしたこともまた事実だろう。
実際にインドネシア・スラバヤのTambak Bayanという地域コミュニティを対象にシシを作ってみて、とにかく住民が新しい生き物の誕生を歓迎し、自らそれに進んで参加してくれたのは印象的だった。実際に演舞時間は過去でも最短の30分ほどだった。インドネシアの暑さにやられて、コミュニティを1周するくらいしか体力が残っていなかった。それでも、その限られた時間がぎゅっと濃いものになった。
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