東京都渋谷区といえば、何を思い浮かべるだろうか?スクランブル交差点、109やH&Mなどのファッション、ベンチャー企業、グラフィティ、ハロウィンの仮装…。この土地に伝統文化が根付くことはなく、生まれては消える水泡のごとく常に流行が目まぐるしく変わる。住む場所というよりは仕事場であり消費地という感覚も強い。
このような特性を持つ渋谷で、獅子舞を制作してみたい。渋谷区に家を一軒一軒回る門付け型の獅子舞は存在しておらず、その生息可能性は極めて低い。それでもあえて、その生息可能性を考えたいのだ。新しいタイプの獅子舞を生み出せるのではないか?という期待とともに、渋谷の街に降り立った。2022年8月13日~17日の期間、100BANCHを拠点として滞在制作を実施。
今回は舞場を選定して、そこで音を流し舞うという、スイッチのオンオフがはっきりと分かれた獅子舞となった。3人のメンバーがお互いの感覚を読み合いながら、舞場がくると音を「プップップッ」と鳴らしたり手をあげたりして合図を出して獅子舞を始めた。この手法は空間の余白に対して敏感で意識的になるため、真の意味での「獅子舞生息可能性」を空間的に確かめるための素晴らしい手法を確立できた。これが今回の獅子舞の最も大きな成果の1つと言えるだろう。
このようにスイッチのオンオフがはっきりと分かれた獅子舞になった要因として、そもそも渋谷には獅子舞が実施できる空間が限りなく少ないという前提がある。また、渋谷の街を歩く人が多すぎるので視線を強烈に感じ、それに伴う精神的な疲労感から長時間舞えなかったことも関係しているだろう。雰囲気に飲まれてなかなか自分の意識を排除したトランス状態になることも難しかった。音源の機材トラブルや、舞場がなくて立ち止まって話し合う場面があり、スムーズに演舞を一連の流れで実施することもできなかった。とにかく環境に圧倒されっぱなしだ。獅子舞ユニットの活動は始まって間もなく、いきなり強敵に戦いを挑んだ感が拭えない。
渋谷での獅子舞は途中何回も休憩を必要としたが、結局演舞の時間はたったの2時間ほどだった。秋田県五城目町では合計5時間くらいは1日で舞い続けていた気がするので、疲労が来るのが早かった。その疲労感はアスファルトを踏んでも土の様に上手く反応が帰ってこないことや、音が響かずに人混みに吸い込まれて消えていく様な感覚から来る様にも感じていて、自分の体内にエネルギーが注入されずに空っぽになっていく感覚とも近い様に感じた。とにかく渋谷は強敵だ。日本全国探してもこれほど獅子舞が舞いにくい街は少ないだろう。修行してからまた渋谷の街に挑みたいという想いが強くなった。学びや気づきが多くて今後の成長に繋がる獅子舞ができた。