秋田発の獅子舞ユニット「獅子の歯ブラシ」。ユニット結成後、初の本格的な滞在制作は秋田県五城目町から始まった。2022年6月8日から13日の日程でアートギャラリー・ものかたりに滞在。6月12日に獅子舞の演舞を行った。
五城目町は秋田県中央部に位置する人口約1万人の町だ。元々明治時代に三大鉱山の1つと呼ばれた阿仁鉱山へ向かう街道沿いで、材木や物資運搬の中継地として栄えた地域である。主な産業は林業と農業。五城目朝市は全国的にも有名で、500年以上の歴史がある。人口減少が進み続けている上に、なぜか近年は獅子舞の門付けをほとんど行っていない。この町に獅子舞が生息するならば、どのような獅子舞が必要なのだろうか?
まず五城目町を見渡して、獅子舞は山から里にかけ降りてくる獣のように、五城目朝市に出現するだろうと考えた。五城目町森林資料館でかつての木材運搬の写真を見たのだが、そこにあった「バチゾリ」の運搬のようなイメージを持っている。
山から里へという流れは、まるで五城目朝市に登場する市神様の柱のようでもある。山の神の心を住民に伝える存在だ。2022年6月12日、市神祭が行われる予定だったのが、関係者にコロナにかかった人が出たため中止となってしまった。僕らは偶然にもこの日に獅子舞を仕掛けようと考えていたので、恐れ多くもこの市神様の代わりを表現するという使命をいただいたように思えた。
獅子による朝市への奇襲は、人工林率が非常に高い五城目における「人工的な獣の里降り」として、捉えられるのではないか?これは山にいるクマが里に降りてくることと似て非なるもので、人間が超自然的なケモノ、いわゆる雪男のような存在として立ち現れるのだ。つまり手を加えることで野山と共に生きることを選び、そして実際に豊かな暮らしを実現している五城目の人々にとって、必要なのは雪男のような信仰なのだ。
払うべき厄の少ない五城目という土地。一方で家には蔦が生い茂り空き家も増えているという現状がある。刻々と見えないところで進行する野生の逆襲を表現するとともに、人工的な野山を作り出してきた人々の信仰のカタチを思い浮かべた。

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